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北海道のアカモズがすみやすい環境は?
ーアカモズの保全に配慮した森林管理の提案へー

2022年に絶滅危惧鳥類"アカモズ"の保全に向けた研究活動を計画しています。

【お礼】調査研究支援プロジェクトへのご投票は2/28に終了いたしました。

皆様にはたくさんのご投票を戴き、大変ありがとうございました。

​研究の進捗状況については、ブログにて随時報告してまいります。

​どんな研究を実施するの?

研究の概要・簡易版についてはこちらからご確認頂けます(PDFファイルが開きます)。

アカモズは国内に生息する鳥類の中でも最も絶滅に近い種のひとつです。このページではアカモズの特徴や危機的な状況を紹介します。

​本研究成果がアカモズの保全活動にどのように結びつくのかについて説明いたします。

​アカモズの絶滅を回避するためにどのような取り組みが必要でしょうか?アカモズの保全を進めるために不足している知見や課題を紹介します。

アカモズの保全活動に必要な知見を収集するために、どのような調査を実施するのかについて紹介します。

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​アカモズってどんな鳥?

アカモズは、高鳴きや"はやにえ"で有名なモズと同じ仲間の渡り鳥です。大きさはスズメより一回りほど大きく、背の赤茶色と腹の白色の体色のコントラストが特徴的です(図1)。アカモズは東アジアの広い地域で繁殖しますが、そのうちの1亜種の亜種アカモズ Lanius cristatus superciliosus 以降アカモズ)は、日本とその周辺地域(サハリン南部・千島列島南部)でしか繁殖しません。

 

国内では主に本州や北海道で繁殖するとされ、私の生まれ育った新潟県内でもいくつかの繁殖地が知られていました。図2は新潟市で2005年に見かけた看板ですが、カワラヒワやムクドリに並びアカモズ(図2左上)が紹介されています。かつては、ムクドリやカワラヒワのように、たくさんのアカモズが生息していたのでしょうか。私はアカモズの観察を夢見てこの場所に2005年から2011年にかけて7年間通いましたが、残念ながらアカモズを観察できませんでした。

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​図1. アカモズ (亜種アカモズ)

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図2. 新潟市西海岸公園で観察される野鳥の看板
​カワラヒワやキジ、ムクドリといった普通種に並びアカモズが紹介されています。

かつては「普通種」だったアカモズは、なぜ観察されなくなったのでしょうか?環境省や全国の野鳥観察者さんにより実施された、全国鳥類繁殖分布調査の結果からは、1970年代から1990年代までの20年間でアカモズの繁殖分布域が約80%縮小したことが明らかにされています。しかしがら前回の繁殖分布調査から20年以上経過した現在において、「アカモズの繁殖地はどこで,どのくらいの個体数がいるのか?」といった情報は明らかになっていませんでした。

   

そこで、わたしたち北海道でアカモズを観察していた研究チームは、本州の研究チームと協力し、日本全国16地域でアカモズの個体数を数える調査を行いました。2010年から2019年にかけて、これらの地域をくまなく探し、個体数の記録と未知の個体群の発見に努めました。

 

その結果、国内における2019年現在の亜種アカモズの繁殖つがい数は149つがい、成鳥の総個体数は332個体と推定されました。国内における本亜種の繁殖分布域は北海道と本州の一部地域に限られ、過去100年間で90.9%縮小したと推定されました(図3)。本亜種の国内における個体数の少なさは、国際自然保護連合(IUCN)が定義するレッドリストカテゴリーのうち、シマフクロウやヤンバルクイナが含まれる「絶滅の危機に瀕している種(EN)」の基準を満たし、ヘラシギやノグチゲラが含まれる「深刻な絶滅の危機にある種(CR)」の基準にも迫っています。

本研究成果については論文としてまとめ上げ、国際誌Bird Conservation Internationalに掲載されました。また、わたしたちの研究チームの成果に基づいて、本亜種は種の保存法が定める「国内希少野生動植物種」に指定されました。さらには、任意団体Science and Art for Natureさんに、保全状況の紹介文とともに、アカモズの素敵な絵画を描いて頂いています。このようにアカモズの保全に向けた準備が着々と進んできた状態になります。

図3. 過去と現在のアカモズの繁殖分布域
​1910~2000年代における亜種アカモズの繁殖分布域(a)と,2010年代における繁殖分布域(b)。過去の分布域は,86件の既往研究と4件のデータベースから推定しました。現在の分布域は全国規模の野外調査から算出しました。aの黒く塗りつぶされた地点で本亜種の繁殖あるいは繁殖行動が確認されました。bの楕円で囲まれた地域にて,繁殖あるいは繁殖行動が確認されました(詳細な地点情報は本亜種保全上の観点から非公開)。

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​アカモズ保全上の課題は?

アカモズを保全するための土台や基礎的な情報は着々と整備されてきました。しかしながら、アカモズはここ数年も個体数を大きく減らしており(松宮ら 2021 日本鳥学会口頭発表A26)、なにかしらのアクションを取らない限り、この地球上からアカモズが姿を消してしまう可能性が非常に高いです。

 

アカモズの絶滅を回避する上で解決しなければならない「大きな問題」が2つ存在します。

 

ひとつめは、活動体制です。北海道地域のアカモズ分布域調査の多くは、学生の自主的な活動、すなわちボランティアによって行われてきました。野外調査時には、宿泊代、ガソリン代、レンタカー代などの出費がかさみますが、それらの殆どは学生の手弁当で賄われてきました(図4)。今後のアカモズ保全に向けた活動を学生のみが担うにはあまりに負担が大きく、そして活動の持続性に限界があります。可能ならば、別の大きな組織と連携して今後の活動を進めていきたいと考えております。

​図1. アカモズ (亜種アカモズ)

図4. アカモズ繁殖分布域調査のようす
​2015年に北海道道北地方でアカモズ繁殖分布域調査を行った時のようすです。日中はただひたすら藪漕ぎを行ってアカモズを捜索し、夜は自動車内に布団をひいて丸まって寝るという生活スタイルでした。この時の調査では、調査地では長年確認されていなかったアカモズの繁殖を確認し、NPO法人サロベツ・エコ・ネットワークさんに成果をご紹介頂いております。

ふたつめの問題は、効率的な保全策が確立されていないことです。アカモズの危機的な状況は明らかになってきましたが、「どのような要因がアカモズの個体数を制限しているのか?」「どのような活動を進めればアカモズの個体数が回復するのか?」といった情報は、北海道では全く明らかになっていません。これらの疑問を解決することで、具体的な保全活動に移ることができると考えております。

​北海道では、ある狭い地域に道内のアカモズのつがい数のおよそ75%が集中しています。この地域の生息環境を、アカモズの生息・繁殖に適した状態で維持することが、北海道のアカモズ、ひいては亜種アカモズの絶滅を回避するうえで欠かせません。

この地域にすむアカモズの殆どが国有林・道有林(北海道庁所有の森林)に生息しています。この地域の森林には、手つかずの天然林、そして植栽林のどちらもが存在し、また植栽年によってさまざまな成長段階の森林が存在します(図 5)。

図5. アカモズ生息地の森林のようす
​北海道のアカモズのとある主要な繁殖地には、「天然林」と「植栽林」の2タイプの森林が存在します。植栽林について、比較的昔に植栽された林では、植栽木が大きく成長してしいます。一方で、最近植栽された林では、植栽木の樹高が低く、草原のような景観が広がっています。

このように、アカモズのとある主要な生息地にはさまざまなタイプの森林が行われており、またそれらでさまざまな管理(防風柵の設置・草刈り)が行われております。しかしながら、

 

・ どの森林(天然林, 高齢植栽林, 若齢植栽林)にアカモズが多いのか?

・ 植栽林でどのような管理を行えばアカモズの個体数は増えるのか?

 

といったことはわかっておりません。アカモズは木が疎らな環境を好むことが知られています。もしアカモズが木が疎らな若齢植栽林に数多く生息していた場合、将来的な植栽林の成長により、アカモズの生息適地が減少してしまうかもしれません。

また植栽林における管理方法もまた、アカモズの生息にとって重要な要因です。例えば、草刈りの時期や範囲によってはアカモズの繁殖に悪影響が出てしまう可能性があります。防風柵の設置は、植栽林の素早い成長を促し、アカモズの生息適地のより早い減少に繋がるかもしれません。このような状況から、北海道のアカモズの現状は決して安泰であるとは言えません。一方で、アカモズの生態をよりよく理解し管理策に反映することで、アカモズの繁殖に適した森林環境の創出につなげられるかもしれません。

​どんな調査をするの?

本研究では、以下2点の目的に野外調査から取り組みます。

野外調査の工程は以下のように、3つに分けられます。

 

アカモズの個体数調査

アカモズの生息地に広がる天然林と植栽林をくまなく探索し、どの森林のどこに、何個体のアカモズがいるのかを、"Look-see method"により調査します。この地域には14 ㎢(東京ドーム297個分)の森林が広がっており、アカモズの繁殖期に複数日に分けて、可能ならば同じ場所を複数回探索することで、アカモズの個体数と位置情報を記録していきます。

森林のタイプ・管理状況調査

森林のタイプ・管理状況を調査していきます。森林管理者さんへの聞き取りから、調査地の森林が「天然林なのか?植栽林なのか?」「植栽林ならばいつ植栽したのか?」「植栽林ではどのような管理(草刈り・防風柵の設置)が行われているのか?」を調査し、その結果を地図化します。さらに、現地の森林でコドラート法により植生調査を実施し、調査地に優占する樹種や樹高・被度・胸高直径を調べていきます。最終的には、異なる森林・管理タイプごとにアカモズの個体数密度(1.5 haあたりの個体数)を算出します。

アカモズの選好環境の特定

①のアカモズなわばり地図と、②の森林タイプ地図を重ね合わせることで、どんなタイプの森林(天然林、高齢植栽林、若齢植栽林)でアカモズが多いのかを明らかにします。具体的には、各森林タイプに生息するアカモズのつがい数を一般化線形混合モデルにより推定し、その推定値を森林タイプ間で比較します。またどのような樹種、樹高、被度、胸高直径、管理(草刈り・防風柵の有無)の森林でアカモズが多いのかを明らかにします。

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​どのように保全に活かされるの?

北海道のアカモズを保全する上では、森林の管理者さんと協力して「アカモズに配慮した森林管理策」を導入することが重要な第一歩となります。しかしながら、たとえアカモズの生息に適した森林構造や管理策を明らかにしたとしても、管理者さんが研究成果を採用してくれないかもしれない...といった悩みなどから、調査・研究の実施をためらっていました。

 

しかし、研究チームのメンバーのひとりが、「アカモズへの影響を低減するにはどうしたらよいか?どういった点に気を付けたらよいか?」といった内容の相談を、アカモズがすむ植栽林を管理している担当者さんからうけました。このご連絡を受けまして、アカモズの生息に適した森林構造や管理策を明らかにしたら管理者さんにご考慮いただけるかもしれないと思い、研究の実施に踏み切りました。

 

本研究を通して、わたしたちの予測通り、アカモズが若齢植栽林を好むことが分かった場合、森林の将来的な成長によってアカモズの個体数や生息適地が減少する可能性を科学的に森林管理者さんと共有することができます。また、森林の成長に伴うアカモズの個体数の減少程度を予測することが可能になります(図6)。わたしたちの予備調査では、昔から成立している天然林にもアカモズが生息していることを確認しています。そのため、天然林のアカモズの生息地の森林構造(樹高・胸高直径・被度)を明らかにすることで、将来的に植栽林をどのような構造へ誘導すればよいのかを検討できるようになるかもしれません。

さらに、防風柵の存在は森林の素早い成長を促進しているかもしれません。森林の成長段階を見極めながら、防風柵の存在がアカモズの個体数や生息適地面積にどのような影響を与えているのかを検討します。

図6. アカモズ個体数と植栽年数の関係の予想図
​植栽からの年数が経過すればするほど、アカモズの個体数が少なくなると予想しています。

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